彼女は家事が非常に苦手だ。これまでは仕事を言い訳にして家事と向き合うことを避けてきたが、これからはそうもいかないだろう。
50代にして本を読んだり、YouTubeを見たりして、掃除や洗濯や片づけについて改めて学んでいるところである。
そんなある日、掃除に関する本を読んでいた彼女は驚いた。
著者は「掃除が好きで、好きなことを仕事にできて本当に嬉しい」というではないか。
彼女にとって掃除は苦痛以外の何物でもない。やらないわけにはいかないので最低限はやるが、やらなくてすむならやりたくない。
ところが、掃除自体が好きという方も世の中にはいるのだ。しかも有名私大を卒業されている。年齢を見る限り、選択肢として会社に勤めるという働き方もあったと思われる。
それでも、掃除が好きで、掃除を仕事にされたのだ。
ここで彼女は気がついた。
もしかして、彼女が今の職場で嫌だなあと思っていることも、好きでやっている人もいるのではないか。
男性優位なところとか、体育会なところとか、多少パワハラでも仕事ができれば評価されるところとか、仕事のやりかたがいまだに昭和なところとか。
彼女にとって居心地は良くないし、安全な居場所と感じられないけれど、もしかしたら多くの男性にとっては「変わらない」ほうが安心できるのかもしれない。
もしかしたら、心おきなく怒鳴り散らすのは気分がいいのかもしれない。夜遅くまで職場に残って「俺、がんばってるぜ」と思っているのは本当に悪気がないのかもしれない。部下は帰れなくて疲弊しきっているのだが。
「好きを仕事に!」なんてありえないと思い込んでいたが、全く仕事と関係のないお掃除本を読んだことで彼女は新たな観点から仕事を見直すことができたのだ。
まだ掃除が好きといえるレベルにはなっていないが、あせらずできることから少しずつやっていこう、と彼女は思った。自分の家を掃除してくれるのは自分だけなのだから。
【アドバイス】
掃除そのものであれば外注という手段もありますよ。掃除は快適に暮らすための手段であって目的ではありません。あまり無理をされないようにしてくださいね。職場を心地よく感じている人がいるかもしれないという観点は面白いですね。たしかに、昭和生まれの体育会系の男性にとっては快適な環境なのかも。いまだに残業が多い人、声が大きい人が評価されるのはいかがなものかと思いますが、組織文化を変えるのは難しいですからね。